ドーパミント! BPM103(Dopa-Mint! BPM103)

R18

 心臓の音が自棄にうるさくて、体の末端が拡張していく。世界がきらきらして気持ちが良かった。はやく虐めて欲しかった、あの人がいつもするみたいに、とんでもない方法で戒(いまし)めて欲しかった。命の音楽が操られていく。きっとあの人の好きなように作り替えられる。遠くでベルが鳴る、あの人が帰って来た、僕は部屋を飛び出して淫らを迎えに行く、そう決まっている。

「榎木津さん」
 探偵社のドアーベルが鳴ったら益田が寝室から飛び出てきて、ふらふらしながら抱き着いてきた。
「おかえりなさい、お帰りなさい、今日早かったですね、どこいってたんですか、僕ずっと待ってたんですよ」
「お前」
 胸に鼻を犬みたいに擦り付けて、益田は舌足らずな口調で榎木津に訴えた。こんなこと普段なら絶対にしないかれだから、いつもと違うことはすぐにわかる。
「何かのんだな、何だ、云いなさい」
「引き出しの二番目……」
「自白剤か」
 サイドテーブルの二番目には薬が入っていて、リゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)、つまりは麻薬を入れていた。この間飲ませてセックスした。気に入ったのか、最近ねだってくる。
 危ない。
「ねえ、ねえ、いいでしょう」
 益田は榎木津にべったり抱き着いて、広い背中に手を這わせている。我慢できないと云ったように、触れた下半身が主張している。
「いけないこ」
 据え膳。
 二人でふらふらしながら寝室にしけこんで、壁にもたれながら深いふかいキスをした。
「ごめ、ごめんなさい、でも、だってこれきもちいいから……榎木津さんもきもちいいっていってたし、ぼく、これすきだから、あっ」
 衣服を弄(まさぐ)って熱い素肌を確かめる。ボタンをはずして、ジッパーをおろして、段々と衣服を剥いていく。淫らになる。
「は、は、きす、すき……」
 舌と舌が絡んで、唾液が流れて、微弱な快楽が垂らされていく。益田はいつもと違って榎木津に手を伸ばして、その体温に手を滑らしている。とろとろした顔で榎木津を見つめて、舌足らずに言葉を紡いだ。
「この間の夢で、僕がゾンビになってあなたを襲おうとしてたんですけど、逆に襲われて、注射されて、それでなんだか人間に戻って……」
「ゾンビ」
「そこ、ここ、刺した」
 首元を撃ちぬいて、益田は恍惚に榎木津を見上げる。
「いま、からだ、ゾンビみたい」
「しんじゃう?」
「しんじゃう、あ、」
 榎木津が益田の性器を確かめると、そこは勃起していて、興奮を知らせていた。
「あ、あ、あ」
 はじけそうな血の塊が、触れられて直接的な快楽を益田に注ぐ。
「はやく、ほし、い」
 榎木津の股を触って、剛直した肉をねだる。我慢できないと指先がいっていて、擦りつける腰が揺れている。
「やらしい」
「だって……」
「欲しいの?」
「ほしい、です」
「いいよ」
 こんなに素直なら優しくしてやってもいいと榎木津は思った。いつも云えばいいのに、いわない。
「壁に手、ついて」
 後ろから益田を抱えて、榎木津は結合する孔にワセリンを塗り込む。
「あ、あ」
「いい?」
「いい、いいです」
 益田の首根っこに噛みつきながら、勃起した性器を双丘に滑らした。
「力抜いて」
 ぴたりと、照準が合う。
「飛んじゃう」
 カウントダウンは始まっている。

 ずぶずぶと入ってきたとたん僕は射精して、トコロテンして調子がいい。きらきらした世界がどこまでも拡張していって、注がれる快楽は大量で、僕の頭の中ではいま快楽物質がどばどば溢れているんだろう。
「あ、あぐ、あっえのきづさ、」
 壁についた手が震えて、足もがくがくする。頗(すこぶ)る感度が好い僕の体。もう立ってらんない。
「ひ、あ、おく、奥、いい、いいよお」
 喘ぎごえなんて勝手に出て、いつもみたいに抑えてらんない。いけない事だってわかってるのにやめらんない。ただ今は注がれる快楽に溺れて、従順に腰を振って、骨抜きにされて、ふにゃふにゃになって、また射精するしかない。
「あ、もっと、ぐちゃぐちゃ、して」
 恨めしいだなんて思わない。だってこうしたくって薬を飲んだんだし。こんなにふにゃふにゃになるなんて知らなかったけれど。どこまでも気持ちいい僕とかれの世界。世界の外側なんて知ってらんない。
「あ、いく、イク、ああ、あ!」
 絶頂だってお手の物。

 弛緩した体を抱いて、ベッドに投げ込む。いつもより積極的な益田を見下げて、榎木津は息を整えた。可愛い。可愛かった。榎木津は性欲が無いように見えて、その実顔に出さずに欲望を煮詰めている。もっと優しくとろかすように抱いてやりたかった。けれど益田は酷くしてという。自分で被虐趣味があると云っていたから嘘なのだろうけれど、本心なのかもしれない。熱が滴っていく。
 いけない。
 酷くするとよくなるかれの為に、酷くしてしまう。
「えの、」
 キスをねだる顔を覆って、粘膜を接続する。かわいい子のてのひらが項(うなじ)を弄(まさぐ)って、官能的な刺激をさした。
「もっと、」
 淫蕩な花が咲く。
 益田が娼婦のように笑って、榎木津の欲望を触りながら舌足らずに云う。
「榎木津さんの、おっきくてかたくてふといので、もっとぐちゃぐちゃしてほしい、奥までぐちゃぐちゃしにして、ぼく、壊して」
 体の両側に手をつく榎木津を、細めた目で見つめながらうたうようにささやいた。
「ぼく、榎木津さんが、すき、大好き」
 それは普段益田が絶対に云わない睦言。
「もう一度、」
「すき、すきです、榎木津さん、すき、だいすき」
「マスヤマ」
 脱ぎかけの衣服を剥いで、二人生まれたままの姿になった。
「だから、ちょうだい」
「ああ」
 カウントダウンを待たずに、榎木津は益田の中に食い込んだ。あられもないこえをあげて、益田は体を弓なりにのけぞらす。スキモノを露わにして、淫蕩を体で示す。
 快楽物質が体を満たしていく。
「あ、あ、あ!」
 待っていられないというように、揺らされるリズムに合わせて益田は体を揺らした。榎木津と目が合って、蕩けるように笑って見せる。もっと深く、穿ってやろうとおもう。
 熱が上がっていくのを止められない。
「はげし、あ」
 益田は榎木津の背中に爪を立てて、いつもはしない快楽の逃がし方をしている。いつもは云わないけれどこうやって深いところを虐められるのが好きなのはわかっていた。
「しんじゃう」
 益田が切ないこえを出して喘いで見せる。素直だった。いつもこんな風に自分を見せてくれればいいのにと榎木津は思う。
「死なないよ。死なせない。生かしてあげる」
「い、く、いく、イク、」
 速度が速まる。益田の足が榎木津の腰に絡んで、快楽を零さないように密着した。きっともうすぐ届く。薬で開けたこの子の体に、たっぷりと注ぐ快楽が。

「きらきらする」
 頭の中が快楽で一杯で、ぼんやりする光景を理解せずに見つめていた。
 自分とあなたの境界がわからない。僕はもうほとんど溶けていて、意識がきっとあなたの中を侵食しているのだろう。ただ気持ちいい。きっとあなたも嬉しいんだろう。だってこんなに優しく触ってくれる。
「もっとほしい?」
 あなたがそんな風に云うから、僕は笑ってしまう。拒否なんて僕ができるわけないのだから、そんな風に聞くのは意地の悪い証拠だ。
「ほしい、おくすりも、あなたも、きもちいいも、全部欲しい」
 薬はきっともう切れていて、こんなに淫蕩になれるのは自分の本性なのだろう。だってあなたはもう気が付いてるでしょう?
「いいよ、全部上げる」
 知らない笑顔は優しくて、僕はあなたに骨抜きになる。世界はもっと眩しくなって、もうあなたしか見えないよ。

2018-10-21
Roman#116
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東京事変『ドーパミント! BPM103